祇園白川沿いの風情ある場所にたたずむ料理旅館白梅。老舗の格式、きめ細やかなおもてなしで、国内外から高い評価を得ています。
その人気旅館の女将から見る祇園の景色を『きょうとくらす』で毎月1回、コラムでお届けします。
料理旅館の裏側は…
ようやく朝晩涼しくなり、夏の薄物の着物から、秋の単衣の着物に袖を通すのも苦でなくなりました。本当に暑い夏でしたね。
第1回目の前回は、私が紆余曲折を経て実家の祇園の料理旅館の女将になったかをお話させて頂きました。今回は旅館の一日、意外と知られていない旅館の裏側と女将の一日のルーティンについてお伝えしたいと思います。それぞれの旅館みな違いますので、あくまで客室7室の小さな当館の……とご承知おきくださいませ。
旅館の日常ってどんなものだと想像されますか?
サスペンスドラマであるような女将がお客様の秘密をうっかり知ってしまい、トラブルに巻き込まれる……といったことは、残念ながらめったにありません。時々はありますが……(笑)脱線してしまうのでそれはまた別の機会にお話ししたいと思います。
大きく分けて旅館の一日は次の通りです。
(1)出社~朝食サービス~チェックアウト
(2)客室整理と清掃、セットアップ
(3)チェックインから夕食サービス
(4)夕食サービスからご就寝のお支度
(5)1日の締めくくり
祇園の朝は遅めの朝食ではじまる
出社から朝食サービス 祇園の朝は遅めですので、白梅の朝食サービスは8時から9時半まで。スタッフは 1時間前に出社します。 わたしの起床は午前6時くらいが多いでしょうか。まず今朝の手順を身支度しながら確認していきます。
「あの方はこうだったな、あ、あそこまでの地図をお渡ししなきゃ」とかブツブツ言いながら ちょっと眉間にしわも寄せて考えているので、家族は気持ち悪いかもしれませんね。
朝食サービスは台風のよう。夕食のコース料理と違い、ある程度まとまってお料理をおだしするので特に何部屋もお部屋でのお食事が重なると大変です。
朝食は和洋食のチョイス。名物のだし巻きは巻き立ての熱々を、和食の場合はお粥かご飯が選べます。
洋食はホットドリンク、ジュースと卵料理が選べるので、それぞれのオーダーがきちんと提供できるよう、またアレルギーや食材の好みも考慮して朝食をサービスしていきます。
お部屋では皆、優雅ににっこりと、裏方では小走りです。
また食後のフルーツやコーヒーやそのほかのドリンクとともに、それぞれのお客様にメッセージを手書きするのが私の役割。お客様との会話がメッセージのヒントになりますので、たくさんお話をするようにしています。
お客様の快適な一日のために欠かせないこと
朝食もひと段落したら、1回目のブリーフィング。
こまめなブリーフィングは全日空に勤務している際に徹底した情報共有、連絡、相談を教えられ、その大切さを痛感しています。チェックアウトまで今いらっしゃるお客様の情報と、今日これからお越しのお客様の情報を朝のスタッフで共有。
それぞれの客様に応じてタクシーのアレンジの有無、徒歩なのかどうか、お荷物をお預かりするのか、宅急便でお送りするのかなど、お手伝いします。
うちの常連さん
そうそう、忘れてはいけない朝食サービスがもう1件。それは白川の青鷺の『おーちゃん』!
プロ野球の王貞治選手(監督)のように1本足で立っていることが多いので、近所のお茶屋のお母さんが命名しました。“おーちゃん”は白川で自分の朝ごはんの番は今か今かと待っています。
主に調理長が餌をやるのですが、すっかり顔を覚えていて、調理長が口笛で呼ぶと近くに飛んできます。鯛やマグロ、鱧などのお刺身の端っこをもらっていて、すっかり口が肥えてしまいました。
朝食は白梅で、昼食は隣の割烹で、夕食は中華料理店でいただくという贅沢な生活。 栄養が足りてすっかり鳥目も治り、夜中までうろうろしている不良鷺です。
客室整理と清掃、セットアップ さてお客様がご出発されたら、まずお忘れ物がないかをチェック。1番多いお忘れ物は携帯の充電器ですが、先日、海外の方でセーフティーボックスの中のパスポートやクレジットカードを全て忘れていかれたことがあり、その時は焦りました。
宅配便で、ギリギリセーフで東京のホテルにお届けでき無事にご帰国。クロネコヤマトさん、ありがとうございました。
お客様と仲居さんの相性を考える
チェックイン前の午後2時には2回目のブリーフィングを行い、 朝のスタッフと夜のスタッフとの情報共有をします。
お部屋の担当も決めていきますが、それぞれスタッフに持ち味がありますので悩むところ。 家族連れには子育て経験のあるスタッフを、カップルでも静かな方、お話が好きな方とさまざまです。話があいそうなスタッフをアサインしていきます。
チェックインの後、お客さんが楽しみにしている懐石料理の夕食サービスの間、全てのお部屋に最低でも2~3回はお伺いするよう心がけています。 なぜなら、はじめはお客様もよそ行きのご挨拶で、2回目、3回目とお伺いすると段々と実は……と本音を教えて頂けて、より快適な時間を提供できるチャンスにつながるからです。
一人になれる時間
お客さんがお休みになり、宿直と今日最後のブリーフィングをしたら ここからが私の1人の時間。
メールの返信やお手紙を書いたりして大体深夜を超えることが多いですが、静かな館内で今日1日を振り返る大切な1日の締めくくりです。鷺のおーちゃんもそろそろ鴨川の自宅へ戻る時間。
次回は楽しく快適に旅館を楽しむコツをお伝えしたいと思います。 ではまたお目にかかれますように。奥田朋子(おくだ ともこ)/料理旅館白梅 女将
1965年京都生まれ。1989年全日本空輸株式会社にCAとして入社。
1997年より若女将として、2017年より女将として料理旅館白梅を経営し、2017年より祇園新橋景観づくり協議会会長として京都、祇園の街づくり活動にも積極的に参加している。
文/奥田朋子
【画像】料理旅館白梅