Sponsored by Kei Arabuna Art Studio
鳥獣被害などの課題をうけて、山で捕獲された鹿やヌートリアなどの野生動物の毛皮を、皮製品として活用する取り組みが注目を集めています。2025年2月5日に、奈良県宇陀市でデザイナー、工芸作家、行政関係者等を対象に工房ツアーが開催されました。
鳥獣被害と毛皮の活用

環境の変化に伴い、生態系の乱れや、人里に山の生き物が姿を現すことも珍しくなくなってきました。近年、美味しさが見直されている鹿やイノシシなどのジビエ料理には注目が集まりますが、食肉にするには厳しい衛生管理をクリアする必要があり、条件に適さないものは焼却処分されている現状があります。

奈良県宇陀市菟田野は、戦後に毛皮製品の産地として一世を風靡し、現在も加工技術を持った職人が製品づくりに携わっています。鹿革の出荷高は、全国シェアの95%以上、毛皮についても同じく45%のシェアを誇っています。
こうした菟田野の職人技術と近年のサーキュラーエコノミーに配慮した新しい毛皮やレザー製品のプロデュースがスタートしました。現代アーティストの『アラブナ ケイ』がアートプロデューサーとして、工房ツアーや新商品のデザインや製品化に携わります。
工房ツアー 毛皮ができるまで

工房ツアーが行われた宇陀市菟田野は、原皮の輸入から、なめし加工、縫製、販売まで一貫したシステムをもつ産地は全国でも唯一といっていいほど貴重な設備が揃っています。元々は鹿皮の需要が豊富であったものの、時代が進むにつれて牛皮に代わり、現在では輸入原皮が主流となっています。近年は狩猟獣の皮の使用も始まっており、産地の変遷がわかります。
ツアーでは、デザイナー、工芸作家、行政関係者などが参加し、原皮から製品になるまでの工程を3つの施設を巡りながら見学しました。
(写真上) 皮の染色を行う「タイコ」という機械を見るツアー参加者。宇陀市菟田野産業振興センター

FUR工房ますだ(毛皮縫製工房)で縫製の仕事について熱心に聞き入る見学者の皆さん。衣料メーカーの要望に合わせて、個体差のあるいびつな形の皮を縫い合わせる熟練の技が必要です。

(写真上) 鹿皮を手作業で陰干し。最後は上質な「セーム革」になります。
奈良産業株式会社(皮鞣し工場)では、原皮の乾皮、ピックル(塩漬け、塩蔵)、冷凍の仕入れ方法の3種類について学びました。
見学者からの感想
「皮から革への製造の工程の一連を見ることができておもしろかった」
「自分の仕事に使用する材料をまた違う使い方をしていて勉強になった」
あったか かわいいファッションアイテム

捕獲した生き物を活用した製品として、アートプロデューサー・アラブナケイが考案したのが“ビスチェ”。フランス語が語源で、肩紐のないブラジャー型の下着でボディーラインを強調するために着用するものです。今では服の上から着てオシャレを楽しむスタイルも流行っています。
毛皮のイメージが画一的になっているため、新たな毛皮のファンを取り込むアプローチとして、薄着でもオシャレをしたい人のニーズに応え、あえて毛の部分を内側にしたデザインを考案しました。このコンセプトを具体化するアイデアは、北極に暮らすイヌイット民族の衣服‟アティギ”から着想を得ました。毛に含まれた空気の層が保温効果を発揮し、極寒の地でも丈夫で暖かく、毛皮の機能性を活かした商品です。

写真上は、鹿革を使った‶和傘”。
和傘は通常、竹・木などの骨に和紙を貼り付けますが、これを薄く伸ばした鹿皮を貼り付けます。

鹿の皮を引き伸ばした「鹿皮紙(ろくひし)」は、和紙と似た質感を持つ堅牢さと気品のある色合いが特徴です。これらに漆や染料を用いることで、伝統工芸と様々なモノづくりとのコラボレーションが広がりそうです。
レザークラフトの拠点として

京都府の捕獲した動物の取り扱いについては、京都府の狩猟者でも活用の方法を模索しているところです。食肉加工の受け入れや、食べ物以外の加工場の整備が整ったとしても、製造、流通の確立と収益化までを見越すと、まだ課題が残ります。
「宇陀市菟田野毛皮革製品ブランド化事業」は、3年以内にデザイナー又は、百貨店及びアパレル企業等とのコラボ製品・皮革製品の製造を行うほか、毎年11月に菟田野で開催する「毛皮革 in うたの」に出展します。
菟田野地域の毛皮革産業のリブランディングをきっかけに、日本各地の鳥獣被害や、環境問題に関わる課題解決につながることに期待が集まります。
Kei Arabuna (現代アーティスト)

1987年東京都生まれ 石川県小松市在住。学習塾塾長、猟師の経験がある。北陸農政局ジビエフォーラム参加(2024年)いしかわ観光特使(2020年~現在)各ふるさと納税返礼品プロデュース(伝統工芸、地域自然資源活用)、海と日本プロジェクト企画出演アーティスト、能登半島地震ボランティア(海中調査潜水士)、アートディレクション(官・民)その他、テレビ、雑誌、ラジオ等メディア出演多数
Kei Arabuna Art Studio公式ホームページ https://keiarabuna.com
文/きょうとくらす編集部
【画像・参考】Kei Arabuna Art Studio/SHARE HUNT/ 宇陀市菟田野毛皮革産業振興協議会