コラム

師走の祇園“女将の祇園つれづれ日記”【きょうとくらすコラム】

祇園白川沿いの風情ある場所にたたずむ料理旅館白梅。老舗の格式、きめ細やかなおもてなしで、国内外から高い評価を得ています。

その人気旅館の女将から見る祇園の景色を『きょうとくらす』で毎月1回、コラムでお届けします。

料理旅館白梅_女将
画像:料理旅館白梅

第14回の今回は、いよいよ年の瀬を迎えました。料理旅館でのお正月の過ごし方についてお話していきたいと思います。

おことうさんどす

祇園の師走の挨拶がそろそろ聞こえるようになってきました。「おことうさん」とは”する事が多い”、”事が多い”という意味で、会う人に年末の忙しさを労う言葉です。‟師走”の暦の名前通り、お坊さんも芸舞妓も小走りの京都の12月です。

年迎え

料理旅館白梅も大掃除、新年の準備に慌ただしい季節になりました。
普段から清掃スタッフが隅々まで綺麗に磨き上げてくれている館内ですが、日頃なかなか手に付けられない備品倉庫やスタッフの控室、行灯や照明器具の裏側、すだれを外して洗うなど、1年分の垢が溜まっているところを綺麗にしていきます。

大掃除当日はご宿泊のお客様をお送りした後、みんな着物からシャツにトレーナー、ジーンズと普段とは全く違った格好に着替えて、一斉に掃除を始めます。白川のアオサギのおーちゃんも、いつもと違う白梅スタッフの姿に落ち着かない様子です。

私は普段自分が使う帳場の整理と掛け軸や香炉、壺、短冊などのしつらえの倉庫の整理をするのですが、入れていたつもりのものが入っておらず違う場所に置いてあることもしばしば…。
小さな宿でも、掛け軸は200本を超え、装飾品は小さなものまでも入れると1000点近くなっています。
母や祖母、ご先祖さんが少しずつ集めてくれていたのは本当に有難いことですし、整理していると長い間忘れていたものが出てきたりして、宝探しのような楽しみもあります。昨年は、長い間紛失していたと思われていた掛け軸が棚の後ろから出て思わず喜びました。

画像:料理旅館白梅

大掃除の最後はスタッフ総出で玄関に飾る『もち花飾り』作り。
もち花は柳の枝が、餅の重みでしなる様子が稲穂に似ていることから五穀豊穣を表します。
また、「八百万の神々への鏡餅としてたくさん小さな餅を付けた」など諸説はありますが、柳の枝に紅白のお餅を細かく付けていくとまるで花が咲いたように見えます。お餅は熱く粉まみれになるので大変ですが、これからやってくるお正月の支度に心が華やぎます。

大掃除の2日目は職人の方が入って、館内の修繕や浴室の天井の汚れ落としなどをします。少しずつお正月に向かって家が整理され美しくなっていくのを見るのは、女性がおめかしをしていくのを見ているようで楽しいです。
棟梁曰く、「古い家は女性と一緒で日々のお手入れが大事や、ちゃんとしていたら長い間きれいやで」と言われて妙に納得しました。

お正月に欠かせないことは?

画像:料理旅館白梅

調理場も12月中旬に入ると普段のお料理とお正月のおせちの仕込みが始まり大忙しです。
丹波黒豆、棒鱈、たたきごぼう、昆布巻きなど縁起の良いものをたくさん仕込むので長時間にわたります。
棒鱈はまだらを干したもので京都のおせちには欠かせません。子どもの頃は苦手でしたが、大人になるとしみじみ美味しい1品です。
水に戻して柔らかくしてから炊くのですが、戻しが弱いと固くて美味しくなく戻しすぎるとボロボロになってしまいます。戻し具合が本当に難しく、昔は乾物屋さんが12月には棒鱈戻し屋になって家庭の棒鱈戻しを引き受けてくれていました。

画像:photoAC

お正月にはいつもと違う祝箸を使います。
両端が細くなった柳箸で、片方を神様がもう片方は人が使うためで、神様と人が同じものをいただくという「神人共食(じんじんきょうしょく)」を意味するそうです。
柳の素材は香りもよく頑丈で折れにくく、昔から清浄と神聖を表すものとされ、また、「家内喜(やなぎ)」とも書くおめでたい木の代表です。

箸袋にはお泊りになられるお客様のお名前を書いてご用意をしていきます。それぞれのお名前を書かせていただきながら、「今年もお変わりないかな。」、「新しいお仕事の調子はどうやろうか。」などこれから年越にお越しになるお客様のことを考えさせていただくのも楽しいひと時です。

画像:photoAC

もうひとつ、お正月には欠かせないものがあります。
”お屠蘇”(おとそ)は清酒に屠蘇散という漢方の薬をつけて作りますが、「屠は、死んだ者」、「蘇は、よみがえる」という意味で、つまり死んだ者でも生き返るくらい薬効が高いという意味だそうです。
白梅では、正月三が日お客様にお屠蘇をしますが、一緒に縁起物といって「みかん、かち栗、ころ柿、カヤの実」を祖前手お出しします。
それぞれには意味があります。みかんは常縁なので永遠の若さを表し、干した栗は固い”カチカチ”の意味ですが”勝ち栗”とも書き勝負運を意味します。ころ柿は古老柿とも長寿を意味しています。

画像:料理旅館白梅

客室のしつらえも正月を寿ぐものに変えていきますが、各部屋に祝い炭という祝飾りを置いていきます。
断面が菊の模様の美しいクヌギの炭を俵型に積んで豊穣を表し紅白の紙で包み、長寿を意味する長い紅白の水引を結んだもので、これを飾ると部屋が一気にお正月らしくなります。
また、31日には玄関に京都の門松、根引きの松を飾り、いつもの暖簾に祝いの幔幕に変えたら準備万端です。いよいよ、京都の年越し、年迎えの始まりです。

画像:料理旅館白梅

最近は、お正月でも特に変わったことはされない家庭も増えているようです。
色々な準備が大変で手間暇もかかりますが、お正月は1年の幸せを祈る大切な行事で京都の役割は古来日本人が育んできた美しい伝統と慣習を次世代に伝えていくことだと思います。
どうぞ皆様良い年の瀨、そして新年をお迎えください。

奥田朋子(おくだ ともこ)/料理旅館白梅 女将

1965年京都生まれ。1989年全日本空輸株式会社にCAとして入社。
1997年より若女将として、2017年より女将として料理旅館白梅を経営し、2017年より祇園新橋景観づくり協議会会長として京都、祇園の街づくり活動にも積極的に参加している。

文/奥田朋子

【画像】料理旅館白梅
※画像はイメージです。