2024年で開園100周年を迎えた京都府立植物園。
日本で最初の公立の植物園として誕生して以来、府民に親しまれ、歴史を重ねてきました。四季折々の草花の栽培はもちろん、希少な植物の保全にも力を入れています。
このコラムでは、植物の専門家である戸部園長に季節ごとの見どころやユニークな植物の生態を教えてもらいます。物言わぬ植物から学ぶことはたくさん!緑に癒され、潤いある暮らしのヒントも見つけてくださいね。

12月が見頃の植物たち
今年もとうとう12月、クリスマスシーズンです。植物園ではこの季節の花、恒例のポインセチア展を開催しています。ポインセチアの原種の原産地はメキシコなど中米で、今から200年近く前の1834年に、メキシコ産の新種Euphorbia pulcherrimaとして発表されています。

Euphorbiaはローマ時代の医師の名前Euphorbusからとったトウダイグサ属のこと、pulcherrimaは「とても美しい」と言う意味のラテン語。それではポインセチアという名はどこから来たのでしょう? それは、米国サウスカロライナ州チャールストンに生まれたジョエル・ロバーツ・ポインセット(Joel Roberts Poinsett)という人の名前からとられています。
ポインセットは、1825年から1829年まで特命全権大使として米国からメキシコに派遣され、帰国時に今我々がポインセチアと呼んでいる植物をメキシコから故郷のチャールストンに持ち帰ったと言われています。その後、その頃はまだ名前が無かったその植物が、何人かの人を経由して英国エジンバラ植物園にも運ばれました。そして1836年、エジンバラ植物園教授のグラハム博士が「エジンバラ植物園と近隣にみつかった新しい植物」という表題の論文の中でポインセットの名前をつけた新種Poinsettia pulcherrima として発表しました。以来、その植物はポインセチアとして広く親しまれたのでしょう。しかし、ポインセチアには既にEuphorbia pulcherrimaという名前がつけられていました。学名には優先権があり、同一種につけられた学名は1日でも早い方の名前が優先されます。そんなわけで、およそ100年後の1940年に学名はEuphorbia pulcherrimaに戻され、ポインセチアという通称名だけが残りました。
ところで、ポインセチアの花はとてもユニークです。と言うのは、一見ひとつの花に見えますが1個の雌花を中心に、たくさんの雄花が集まった花序(花の集団)なのです。

杯状花序(はいじょうかじょ)といいます。雌花は1個の雌しべだけから成り、雄花は1本の雄しべだけから成っています。ポインセチアが含まれるトウダイグサ属は2420種もあるのですが、それらの花は全て杯状花序をつくります。 そんなトウダイグサ属は、トウダイグサ科に含まれます。今から何十年も前、DNAを調べる研究が進んだことから、トウダイグサ科に最も近いのが、あのラフレシア科であることが分かったのです。植物園内の観覧温室に入ると真正面に、世界最大の花を持つラフレシアが展示してあります。


12月、園内生態園にはキチジョウソウやオハラメアザミなどが咲いています。


そのほか、赤い実や黒い実の植物を探してみるもの楽しいかもしれません。

(イイギリ)

(ヒトツバタゴ)

(ナンテン)
戸部 博 京都府立植物園 園長
1948年青森生まれ。東北大学理学部卒業。千葉大学理学部助手、京都大学理学研究科教授など39年間大学につとめる。その後、日本植物分類学会長、日本植物学会会長などをつとめ、2018年4月1日より京都府立植物園の園長に就任。自らの主導により植物や植物多様性保全、京都府立植物園に関する研究を専門家によって一般の方に分かりやすく伝えるサイエンスレクチャーを2023年より植物園にて開始。
文/戸部 博
【画像】京都府立植物園
