2024年で開園100周年を迎えた京都府立植物園。
日本で最初の公立の総合植物園として誕生して以来、府民に親しまれ、歴史を重ねてきました。四季折々の草花の栽培はもちろん、希少な植物の保全にも力を入れています。
このコラムでは、植物の専門家である戸部園長に季節ごとの見どころやユニークな植物の生態を教えてもらいます。物言わぬ植物から学ぶことはたくさん!緑に癒され、潤いある暮らしのヒントも見つけてくださいね。

6月が見頃の植物たち
バラ園の花が、5月中旬ごろから合計322種・品種1378株がほぼ一斉に咲き出しました。
その中に、オールドローズと呼ばれる古くからあるバラの原種があります。世界で8~10種ほどはすべてアジア産です。
日本固有種サンショウバラや、日本や中国などの産するノイバラ、テリハノイバラ、ハマナス、中国産のモッコウバラ、コウシンバラ、ナニワイバラなどが咲きます。それらに続き、モダンローズと呼ばれる原種バラからつくられた園芸バラが咲きだします。モダンローズは、かつては自然界に存在していなかった園芸品種です。

(サンショウバラ)

(コウシンバラ)
今から150年以上前の1867年、フランス・リヨンの育種家によって人工交配によりつくられた園芸品種第1号のバラ、ラ・フランスが発表されました。
そのころはまだ遺伝子もDNAも知られていませんでしたが、バラの園芸家は原種間、さらに品種間で人為的に交配すれば新たなバラができることを知りました。実は1865年には「遺伝学の父」と言われるメンデルによるエンドウ豆の交配実験が発表されています。人工交配とその技術がさまざまな植物に広がった時代だったのでしょう。園芸バラ第1号のラ・フランスは、原種のコウシンバラをルーツにもつと考えられています。というわけで、植物園内では原種バラと園芸バラを探してみるのも面白いかもしれません。

(ラ・フランス)
この季節、目につくのは植物園会館近くにあるモクレン科の1種タイサンボクの大木です。大きな花が目の高さにあってじっくりと観察することができます。9枚の白い大きな花被片(がく片と花弁)と無数の雄しべや雌しべがらせん配列しているのが特徴です。今から40年ほど前、米国中央部のおよそ1億年万前の地層からタイサンボクとそっくりの花の化石が発見されました。

(タイサンボクの大木)
学名にArchaeanthus 「最初の花」とつけられました。その頃は、モクレンの仲間が被子植物(花をもつ植物)進化の祖先と考えられていました。そのため、モクレンの花とそっくりな「最初の花」の発見は、その仮説を支持するとして研究者のなかで大喝采を浴びました。しかしその後DNAの研究が進むと、植物進化のストーリーも変わりました。

(バイカモ)
これから雨季を経て夏に向かいます。園内には、初夏を思わせるさまざまな花が見られます。アジサイのほか、水車小屋近くの小川にバイカモ、キツネノボタン、ミヤマヨメナ、ブラシノキ、オオヤマレンゲ(これもモクレン科)など。単子葉植物ではキショウブ、イチハツ、ユッカ・トンプソニアナなどが見かけられます。
これから梅雨に入りますが、この時期にしか見られない植物もあります。
雨の日でも涼しげな雰囲気で植物を楽しむことができます。
京都府立植物園イベント情報
LIGHT CYCLES KYOTO(ライトサイクルキョウト)
開催期間:2025年5月24日(土)~2026年3月31日(火)
時間【~7月21日】19:30~21:30
【7月23日~9月7日】19:00~21:30
【9月9日~9月28日】18:30~21:30
【9月30日~3月1日】18:00~21:30
【3月3日~3月31日】18:30~21:30
※入園は~20:30
休演日:毎週月曜日
料金:【大人(高校生以上)】前売2,300円/当日2,500円
【 小人(小中学生)】前売1,100円/当日1,200円
※未就学児は無料
※その他にもお得にご購入いただけるチケットがございます。詳細は公式サイトをご確認ください。
戸部 博 京都府立植物園 園長
1948年青森生まれ。東北大学理学部卒業。千葉大学理学部助手、京都大学理学研究科教授など39年間大学につとめる。その後、日本植物分類学会長、日本植物学会会長などをつとめ、2018年4月1日より京都府立植物園の園長に就任。自らの主導により植物や植物多様性保全、京都府立植物園に関する研究を専門家によって一般の方に分かりやすく伝えるサイエンスレクチャーを2023年より植物園にて開始。
文/戸部 博
【画像】京都府立植物園