KBS京都で放送中の『谷口流々』。
谷口キヨコが、京都を中心に活躍する人々の仕事現場に足を運び、十人十色の人生哲学を紐解いていきます。
2023年7月22日(土)の放送では、ヴァイオリン/ヴァイパー奏者・大城敦博さんに話を伺いました。
Profile:ヴァイオリン/ヴァイパー奏者・大城敦博さん
ヴァイオリン奏者の大城敦博さんは、国内ではまだ唯一の電気ヴァイオリン・ヴァイパーの奏者でもあります。
ヴァイオリンとヴァイパーの2つの楽器の特徴を活かし、日々様々なジャンルの音楽を演奏しています。
その中でも特に力を注いでいるのが、沖縄で生まれたヴァイオリン音楽『琉球ヴァイオリン』です。
ヴァイパーの音色とは?
ヴァイパーとは、電気ヴァイオリンの一種。アメリカのヘヴィメタルヴァイオリニストであるマーク・ウッド氏が開発した楽器です。
音が鳴る原理は普段よく見かけるヴァイオリンと同じで、弾いた音を、楽器の外からのマイクではなく、内部のマイクで拾うのが電気ヴァイオリンです。
大城さんが、さっそく演奏を披露してくださいました。聞こえてきたのは、宮古島の民謡『漲水ぬクイチャー』の美しい旋律です。
驚くことに途中で、音が重なって聞こえ始めました。大城さんは、演奏しながら足で機器を操作してそれを録音、その自らの演奏を再生しつつ、別の音をその場で重ねていきます。
指で弦をはじいて太鼓のような音を出したり、指笛のような高音を入れたりと、特徴的な音色が重ねられて、今までに聴いたことがない音楽が広がります。
温かみのある音に聴き惚れていると、あっという間に演奏が終了しました。
足元で操作していたのは、ループペダル。最初に踏んだ時から次に踏むまでの演奏を録音して、その部分を繰り返し流しながら、その上にまた別の演奏を重ねることができるのです。
これが、この独創的な音楽を作り出す仕組みというわけですね。
ヴァイオリンとの出会い
沖縄県那覇市出身の大城さん。幼い頃、祖母が営むお店で過ごしていると、ラジオをはじめ生演奏でも、周りからいつも三線の音が聞こえていたと言います。
そんな環境に影響を受け、家にあったおもちゃのヴァイオリンを毎日のように弾いていたという大城さん。それを見ていた家族が、ヴァイオリン教室に通わせてくれたそうです。
初舞台は7歳の時のこと。親戚のおばあちゃんに贈るために弾いたのは、習っているクラシック曲ではなく、『赤田首里殿内(あかたすんどぅんち)』という沖縄の童唄でした。
練習を続ける中で、「沖縄の曲をヴァイオリンで弾くだけでは、単に『ヴァイオリンで奏でる沖縄のメロディー』にしかならない。そうではなく、『沖縄のヴァイオリン音楽』というものを作りたい」という気持ちが芽生えてきたという大城さん。
メロディーを弾きながら、同時に弦をはじいて伴奏をする『てぃんさぐぬ花』を編み出し、それを聴いたおばあちゃんの「沖縄の音楽とヴァイオリンって、よく合うんだね」とボソッと呟いた一言は、大城さんに魔法をかけました。
その後、進学のために京都に来た大城さんに、ギターを弾く友人ができます。その友人に誘われ、友人のボーカルとギターの音にヴァイオリンをのせて演奏してみたところ、これが好評でした。
ヴァイオリンのさらなるおもしろさに気がつき、ロックやポップス、アイリッシュやカントリー、ジャズなど、様々なジャンルに挑戦し始めたと言います。
『琉球ヴァイオリン』は、そうした様々な音楽を学んだ大城さんが、約30年をかけて作り上げました。そしてついに昨年、沖縄の新聞に「琉球ヴァイオリン確立」と掲載されるまでに至りました。
ヴァイパーの可能性
大城さんとヴァイパーとの出会いは、なんとヴァイパーという楽器がまだできる前。
開発者のマーク・ウッド氏のCDを聴き、その楽器の完成を心待ちにしていたそうです。高校生くらいの頃でした。
それから十数年後、やっと販売されはじめたことを知り、手に入れようと奔走します。日本では販売されていなかったため、アメリカから直接取り寄せて、ついに大城さんはヴァイパーを入手したのでした。
ヴァイパーとループペダルに出会い、バンドメンバーに、こんな音を重ねてほしいという、サンプルのつもりで演奏したという大城さん。実際にやってみると、一人で十分おもしろい演奏が成り立つことに気がつき、そこから今の演奏スタイルが誕生しました。
そしてなんと大城さんは、ヴァイパーの開発者であるマーク・ウッド氏に演奏を聴かせるべく、アメリカまで会いに行ったのだそう。
実際にヴァイパーとループペダルを使った琉球ヴァイオリン音楽を聴いてもらうと、マーク・ウッド氏から「君の音楽は誰のものとも違う、独自の音楽だね」という嬉しい言葉をもらいます。
「アメリカやヨーロッパの人の『独自のもの』という言葉は、アーティストに対する最大級の賛辞。とても嬉しく、琉球ヴァイオリン音楽が世界に通用することを確信できました」と、大城さんが笑顔で話してくれました。
「ヴァイパーに出会ったことは、僕の人生の中の革命でした。今まで通ってきたジャンルそれぞれをオリジナルの楽曲にして演奏しています。そしてこの音楽を奏でたいという人がいたら、ぜひやってみてもらいたい」と語る大城さん。
大城さんの独創性から生まれた『琉球ヴァイオリン』と『独特なヴァイパーの演奏法』が、この先どんどんと広がりを見せてくれるのが楽しみですね。
大城さんを表すことば
今回の“大城さんを表すことば”は、『オンリーワン∞』です。
世界で一人、独自の琉球ヴァイオリン音楽を奏でる大城さん。オンリーワンの存在にこれからの無限の可能性を感じた、ワクワクする気持ちが込められた言葉です。
みなさんもぜひ、聴いたことがないはずなのにどこか懐かしい気持ちにさせてくれる、琉球ヴァイオリンの音色に耳を傾けてみてくださいね。
文/ななえ
【画像・参考】谷口流々(毎週土曜日9:30~10:00) – KBS京都
※この記事は、2023年7月22日(土)放送時点の情報です。最新の情報は各店舗・施設にお問い合わせください。