KBS京都で放送中の『谷口流々』。
谷口キヨコが、京都を中心に活躍する人々の仕事現場に足を運び、十人十色の人生哲学を紐解いていきます。
2023年8月19日(土)の放送では、パン職人・新田里奈さんに話を伺いました。
Profile:パン職人・新田里奈さん
新田里奈さんは、京阪清水五条駅から徒歩10分にあるベーカリー店『Nitta Bakery』を3姉妹で営んでおり、主に新商品の開発を担当しています。
父が始めたパン屋さん
3姉妹が営む『Nitta Bakery』では、長女の麻記さんが経理とパン窯に関すること、次女の明香さんが販売、そして三女の里奈さんがパンの仕込みと新商品の開発を担っています。
お店のルーツは、3姉妹の父・雄一さんが30年間営んでいたパン屋さんでした。物心ついた時から、朝ごはんはパン。しかしその場には、早朝4時から仕事をしていた父の姿はなかったと、新田さんが振り返ります。
3姉妹全員が、学生時代には父のパン屋さんで販売のバイトをするなど、パンに関わる仕事に触れて育ったのだそう。
しかし雄一さんは、姉妹にお店を継いでほしいという話を一度もすることはなく、むしろ「継がないでほしい」と考えていたそう。それは、“パン作りはきつい仕事だから”という親心から来る思いだったようです。
新田さんは、観光に関わる仕事に就きたいと考え大学へ進学。そんな矢先、大学1回生の後期に、父・雄一さんが過労で倒れてしまいます。
新田さんは1年間大学に通いますが、「いい加減な気持ちで通っている。このままじゃ申し訳ない」と、2回生で中退。
母親には「このまま社会に出たらどうか」と勧められますが、社会に出る決心がまだついていなかった新田さんは、専門学校への道を決めます。父の手伝いがしたいという思いで、製菓・製パンが学べる専門学校に進みました。
現実逃避、そして決意
京都・今出川にある人気ベーカリー『ル・プチメック』が大好きだったという新田さん。専門学校を卒業後は、「ここで働きたい」という思いで、東京の『ル・プチメック』の店舗で面接を受け、見事合格します。
しかし、そこにはドイツやフランスで修業をした本格的な職人たちがたくさん。新田さんは重いプレッシャーを感じました。
そして、パン作りにおいて最も大切だという、粉を生地にする工程を担当することになった新田さん。それはお店の要がゆえに責任も重く、誰もやりたがらないポジションでした。
責任の重さに「自分なんかが……」と自信をなくし、「いつ辞めようかな」と考える日々を過ごします。
入社して3か月が経った時、父・雄一さんが62歳で他界してしまいます。葬儀をすませ、『Nitta Bakery』に寄った時、昨日まで営業していた店に活気がないことを痛感し、凄まじい寂しさを感じます。
そして、父の仕事を手伝っていた2人の姉に、「私は東京で頑張るから、いつかまたパン屋を復活させたい」という思いを伝えます。
京都から東京に帰る道すがら、新田さんは仕込みをきちんと学びたいという思いを新たにします。東京に着いて、半分泣きながらその思いをお店に伝えました。
その後、毎日怒られながら、泣きながら、コツコツと修業を続け、少しずつ任せてもらえる仕事が増えていきました。2年の修業を経て、自分にも自信がついてきたのだそう。
ついに念願の再始動へ
2018年9月、ついに念願が叶い、3姉妹のお店『Nitta Bakery』を京都に再オープンします!
オープン時には、父・雄一さんのお店のファンだったお客さんたちから「待ってたよ」とあたたかな言葉をかけてもらったそう。
ここで、お店のパンをいただいてみることに。『ズッキーニフランク』は、オリーブオイルを練り込んだパリッとした生地が自慢です。
働きすぎて身体を壊してしまった父を見てきた新田さんたちは、「仕事以外のことも充実させられるようにやっていこうね」と話しているそう。
しかし、仕事以外の趣味を尋ねると、「うーん、結局、次のパンどうしようかなって考えていますね……」とはにかみながら教えてくれました。
父の思いを継ぎつつ、楽しみながらパン屋を営む3姉妹に今後も期待が膨らみます!
新田さんを表すことば
今回の“新田さんを表すことば”は『やっぱりパン』です。
手頃な値段で気軽に買えて、たくさんの種類があり、季節を感じることもできる。みんなが大好きな食べ物・パン。そんなパン作りに真摯に向き合う新田さんとその姉妹たちの姿から、勇気とあたたかな気持ちを分けてもらうことができました。
皆さんもぜひ、『Nitta Bakery』に足を運んでみてくださいね♡
文/ななえ
【画像・参考】谷口流々(毎週土曜日9:30~10:00) – KBS京都
※この記事は、2023年8月19日(土)放送時点の情報です。最新の情報は各店舗・施設にお問い合わせください。