キャリア

さまざまな芸術制作を経て、西陣の伝統技法で描く「箔画」

KBS京都で放送中の『谷口流々』。
谷口キヨコが、京都を中心に活躍する人々の仕事現場に足を運び、十人十色の人生哲学を紐解いていきます。
2023年5月20日(土)の放送では、箔画作家・野口琢郎さんに話を伺いました。

Profile:箔画作家・野口琢郎さん

画像:KBS京都『谷口流々』

箔画作家・野口琢郎さんは、京都西陣の箔屋に伝わる伝統的な制作技法を取り入れた新たな絵画表現『箔画』を創作するアーティストです。

箔画

画像:KBS京都『谷口流々』

箔画制作の様子を見させていただきました。まず箔を塗りたい部分にだけ漆を塗ります。そして、箔を貼りたくない部分を紙で隠しながら、順番にいろんな色の箔を貼っていきます。下絵はなく、頭の中で考えながら作り上げていきます。

箔だけで描いているので『箔画』と呼んでいます。

画像:KBS京都『谷口流々』

こちらの作品は、空から見た街並みをイメージして作られています。

画像:KBS京都『谷口流々』

『Landscape』というシリーズの作品の一つで、現在50点ほどあります。

画像:KBS京都『谷口流々』

こちらの作品は、先ほどと全く印象が違います。漆で箔を貼るという技法は同じですが、モチーフが沖縄の海と空で夜明けをイメージしています。

画像:KBS京都『谷口流々』

野口さんの家族は家業として西陣で引箔というものを作っていました。引箔とは和紙に漆を接着剤代わりとして金箔を張っているものです。

画像:KBS京都『谷口流々』

完成したものを切屋に持っていくと裁断され、このような形状に変わります。

着物の帯などの中にこちらを平面のままで入れることで立体感のあるあしらいになります。

画像:KBS京都『谷口流々』

野口さんは引箔の技術を応用し、箔画に活かしています。

アートの道を歩む

画像:KBS京都『谷口流々』

幼い頃は、外で遊ぶよりも絵が好きであったり、家で絵を書いているような大人しい子どもだった野口さん。

大学に進学する頃に開校したばかりだった京都造形芸術大学の油画コースへ入学しました。

画像:KBS京都『谷口流々』

大学では絵にはコンセプトがないといけないということで、これまでのように描きたいものを描いているだけでは駄目だったそうです。

野口さんはその点がどうしても納得できず、徐々に絵を描くことが嫌になってきてしまいました。

画像:KBS京都『谷口流々』

しかし、大学で入った写真部に非常に面白味を感じました。油絵コースでしたが、大学後半の2年間はほとんど暗室に入っていたそうです。その頃、卒業後の就職についてはあまり考えておらず、義務感だけで家業を継ぐのだろうと思っていました。

画像:KBS京都『谷口流々』

就職活動もせず家業をなんとなく習っていたところ、野口さんのお父さんが激怒。ある日突然「ちょっとついて来い」と言われ、西陣の織屋さんに連れて行かれました。そして、お父さんは「こいつを好きに使ってください」と言い、織屋さんで働くこととなりました。

それから3年ほど勤め、とても勉強になったそうですが、元々やりたかったことでもなかったのでこの先どうなるのだろうと思っていたそうです。そして、それをまたお父さんに見抜かれます。

画像:KBS京都『谷口流々』

またもお父さんに「ちょっとついて来い」と言われ、今度は有名な写真家の東松照明先生のところへ。そして再び、お父さんは「こいつを好きに使ってください」とお願いしました。

画像:KBS京都『谷口流々』

東松照明先生の元で、2000年2月頃から長崎で住み込みの助手を始めました。1年ほど過ごしたところ、京都を離れて初めて見えてきたものがありました。

実家には4代も続く魅力的な家業があり、継がなければ終わってしまうという現実です。その現実を受け入れ、帰らなければいけないと野口さんは決心しました。

「写真の表現では新しいことをするのが難しそうだが、箔と漆はまだまだ表現の可能性があるのでは」と野口さんが考えたことも決め手の一つでした。

家を守るために

画像:KBS京都『谷口流々』

京都に帰ってきて、お父さんから引箔の作り方を学ぶようになり、営業活動も始めました。しかし、売り込みは難航します。

野口さんの家では手作りでしたが、西陣の主流は機械で似たようなものを作ることに変わっていました。質の良さは分かってもらえてもコストがかかるため、なかなか買ってもらえませんでした。

画像:KBS京都『谷口流々』

そのうち、何かやっぱり別のことをと、作品作りを思いつきました。1年ほど作品作りをしていると『アミューズ・アーティスト・オーディション』という美術作家の発掘オーディションがありました。オーディションのテーマが“妖精”で、野口さんはイメージが湧いてきました。

2m70cmの大きな作品を箔で作り上げ、グランプリをとりました。世に出た初めての作品が評価されたことが良いきっかけとなり、作家活動だけに専念することを決意しました。

お父さんには謝りましたが、西陣の状況を理解してくれていたため認めてくれたそうです。

画像:KBS京都『谷口流々』

ロームシアター京都の蔦屋書店には4mにもなる野口さんの作品が設置されています。

野口さんを表すことば

画像:KBS京都『谷口流々』

「家業をやめてしまっているので5代目とは言えませんが、家業の技術を応用して箔画という形で続け、とにかく家族を守るために頑張っていけたらな」と野口さんは話します。

今回の“野口さんを表すことば”は 「〇くのアート」です。〇の中には琢郎さんの“た”、僕の“ぼ”、箔の“は”が入ります。それぞれの技術と芸術が合わさって、ついにこのアートが生まれたんですね。

谷口の気づき

画像:KBS京都『谷口流々』

電話またはウェブで予約すると中に入っていろいろな説明を聞くことができます。素敵なお庭も見られますよ。

家業の技術を活かしアレンジを加え、作品を作り続ける野口さん。出来上がった作品には、たくさんの方の元で修業され培われた丁寧な仕事が光りますね。ぜひ皆さんも一度ご覧ください。

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文/きょうとくらす編集部

【画像・参考】谷口流々(毎週土曜日9:30~10:00) – KBS京都
※この記事は、2023年5月20日(土)放送時点の情報です。最新の情報は各店舗・施設にお問い合わせください。