ことし開園100周年を迎えた京都府立植物園。
日本で最初の公立の総合植物園として誕生して以来、府民に親しまれ、歴史を重ねてきました。四季折々の草花の栽培はもちろん、希少な植物の保全にも力を入れています。
このコラムでは、植物の専門家である戸部園長に季節ごとの見どころやユニークな植物の生態を教えてもらいます。物言わぬ植物から学ぶことはたくさん!緑に癒され、潤いある暮らしのヒントも見つけてくださいね。
名前の由来は?
いつの間にか11月。現在、生態園内の随所にオハラメアザミがみられます。このコラムを書きながら初めて学名を見てみました。
学名と言うのは、同じ種については世界中どこの国に分布していてもたった一つの名前に統一されていて、現在は国際命名規約というルールに従って発表されています。
学名は、言わば名字と名前のように、属名と種小名という2つの名前の組み合わせで出来ています。そのあとに、命名者の名前が加わります。オハラメアザミの学名は、「日本の野生植物」(平凡社)によると、『Cirsium kiotoense (Kitam.) Kadota』となっています。『Cirsium』はアザミ属を指し、『kiotoense』が京都に因んだ種小名、『(Kitam.) Kadota』はこの種の命名者です。オハラメアザミの学名の命名には、2人の人物が関わっていました。
オハラメアザミの特徴
もともとこの植物について、1930年に、中井猛之進(当時東大教授)が、群馬県妙義山や伊豆半島から採集されたものを新種アズマヤマアザミ『Cirsium microspicatum Nakai』として発表しました。しかし翌年、北村が、北白川から採集した植物がアズマヤマアザミと比べて、たくさんの花(花序)を外側から包んでいる鱗片(総苞)の先端があまり尖っていないことに気がつき、それをアズマヤマアザミの変種オハラメアザミ『Cirsium microspicatum Nakai var. kiotoense Kitam.』として発表しました。ここに出てくるvar.はvariety(変種)を略したものです。
そして、それから86年後の2017年、前述の『日本の野生植物』第5巻291ページに、門田は北村がつくった変種オハラメアザミを種に格上げして載せました。しかし、その学名はルールに従って正式発表されていないため、正式な学名ではありません。府立植物園では、オハラメアザミを『Cirsium microspicatum Nakai var. kiotoense Kitam.』の学名でご覧いただいています。
アザミ属Cirsiumは、北半球に120種以上が分布しています。名前の由来はギリシャ語の「kirsos」で、1754年につくられています。「kirsos」の意味は静脈拡張です。そのむかし、葉を煎じて飲んだのか、すりつぶして患部に塗ったのか、静脈瘤の治療に使ったと思われます。
『LIGHT CYCLES KYOTO』
京都府立植物園100周年を記念したナイトイベント『LIGHT CYCLES KYOTO』が2024年12月26日まで開催しています。夜の植物園を光や音、セットデザインなどで昼間の植物園とは全く異なる幻想的な世界が広がります。
演出を手掛けるのはマルチメディア・スタジオ『MOMENT FACTORY(モーメントファクトリー)』。これまでディズニー、ユニバーサルスタジオ、マイクロソフト、ソニー、著名なアーティストや世界の公共施設でコラボレーションを行っています。
【開催情報】
LIGHT CYCLES KYOTO
開催期間:2024年12月26日(水)まで
開演時間:18:00~21:30(最終入場20:30)
入場料(当日券):大人2,500円、こども1,200円
休演日:月曜日
戸部 博 京都府立植物園 園長
1948年青森生まれ。東北大学理学部卒業。千葉大学理学部助手、京都大学理学研究科教授など39年間大学につとめる。その後、日本植物分類学会長、日本植物学会会長などをつとめ、2018年4月1日より京都府立植物園の園長に就任。自らの主導により植物や植物多様性保全、京都府立植物園に関する研究を専門家によって一般の方に分かりやすく伝えるサイエンスレクチャーを2023年より植物園にて開始。
文/戸部 博
【画像】京都府立植物園