コラム

京都府立植物園 PLANTS WONDER WORLD冬の植物園【きょうとくらすコラム】

ことし開園100周年を迎えた京都府立植物園。
日本で最初の公立の総合植物園として誕生して以来、府民に親しまれ、歴史を重ねてきました。四季折々の草花の栽培はもちろん、希少な植物の保全にも力を入れています。

このコラムでは、植物の専門家である戸部園長に季節ごとの見どころやユニークな植物の生態を教えてもらいます。物言わぬ植物から学ぶことはたくさん!緑に癒され、潤いある暮らしのヒントも見つけてくださいね。

画像:京都府立植物園

見頃の植物

2024年も12月を迎え、年初めの京都府立植物園の開園100周年記念オープニングセレモニーから始まったさまざま記念イベントも終えようとしています。
府立植物園は、次の100年に向けて『誰もが楽しく学べる「学びの入り口」』として学習機能を強化すること。『京都府内の植生把握等を通じた植物多様性保全への寄与』を将来ビジョンのコンセプト(基本方針)として、次の3つに取り組むことにしました。
①これまでの府民の憩いの場の機能に加えて、博物館機能を拡大。
②次世代を担う子どもたちや若い世代向けの魅力を拡大。
③植物多様性保全に関する研究機能を拡大。

一方、今年は植物園設立の歴史を振り返る年でした。正門を入ってすぐ左手に高さ5メートル、幅約2メートルの大きな石碑が立っています。一番上には「太平有象(たいへいゆぞう)」、下には「この植物園が出来たのは、秀でた役人の大森知事と三井家のおかげだ」と刻まれています。

画像:京都府立植物園

植物園創立にこだわった大森知事と資金提供者三井家に感謝を込めたものです。植物園が一般的に知られる施設ではなかった時代、アイデアを寄せた人、設計に携わった人たちがいて、発案から開園まで10年近くかけたプロジェクトXの実現でした。

冬を迎えた園内では、こも巻きされたソテツが季節を知らせてくれます。また、これまで花を咲かせてきた植物がさまざまな果実をつけています。今年は秋に咲く花の開花が遅い年でした。この夏の異常な暑さのせいで、いつまでも休眠から目覚めず、開花が遅れました。そんな中、12月はクリスマスシーズン。それに合わせて恒例のポインセチアが観覧温室内に展示されています。花が遅いため赤やピンク、黄色に色づいた周りの葉だけが目立ちます。

画像:京都府立植物園

ポインセチアには、さまざまな園芸品種が知られています。原種は中米産で、学名はトウダイグサ科の
Euphorbia pulcherrima(pulcherrimaは、とても美しいという意味)です。ただ、1834年に新種として発表されたときは、学名がPoinsettia pulcherrimaでした。その後1940年に今の学名に改められたのですが、それまでの間に属名のポインセチアの名前で親しまれてしまったのだと思われます。枝先につく花は一見すると、1個の花に見えますが、実はたくさんの花の集まり(花序)で、トウダイグサ科の花序のことを『杯状花序』と言います。もちろん杯状に見えるためです。雌しべ1個からなる雌花が先端に、その周りに雌しべ1本からなる雌花がたくさん並んでいます。
また、原種では雌花がよく発達する花序と、雄花がよく発達する花序が見られます。

画像:京都府立植物園

戸部 博 京都府立植物園 園長

1948年青森生まれ。東北大学理学部卒業。千葉大学理学部助手、京都大学理学研究科教授など39年間大学につとめる。その後、日本植物分類学会長、日本植物学会会長などをつとめ、2018年4月1日より京都府立植物園の園長に就任。自らの主導により植物や植物多様性保全、京都府立植物園に関する研究を専門家によって一般の方に分かりやすく伝えるサイエンスレクチャーを2023年より植物園にて開始。

文/戸部 博

【画像】京都府立植物園