コラム

京のそなえ 今むかし“女将の祇園つれづれ日記”【きょうとくらすコラム】

祇園白川沿いの風情ある場所にたたずむ料理旅館白梅。老舗の格式、きめ細やかなおもてなしで、国内外から高い評価を得ています。

その人気旅館の女将から見る祇園の景色を『きょうとくらす』で毎月1回、コラムでお届けします。

料理旅館白梅_女将
画像:料理旅館白梅

第15回の今回は、年が明け節分も終わり、2月も半ばに。節分などに関するお話をしていきたいと思います。

京都も底冷えの季節になり、湿気のある寒さがこたえる頃です。
今年は大きな厄災が起こらずにいてほしいと皆が願う1年の始まりとなりました。

今昔

画像:料理旅館白梅

「京都は天災の少ない場所で風水の思想からみても完璧な地形。それが故に平安京の都として選ばれた」と京都人の多くは教科書で習ったくらい、そう思っている人が多いですがそれでも起こる天変地異、厄災から逃れるため、古くから様々な厄除けの方法が考えられました。

まずは、皆さんもつい最近経験したであろう豆まきを行う”節分”です。
厄を運んでくる鬼を追い払うための”豆まき”は豆が「魔を滅する」に通ずることから2月の節分行事として定着していますが、幼い頃の楽しい記憶として残っている方もいらっしゃるのではないでしょうか。
ですが、大人になってわかるのが実は豆まきの後が1番大変なんですよね……。豆に気付かず踏んでしまい粉々になって余計に掃除が大変になってしまいます。地域によっては落花生を殻付きのまま豆まきをするそうです。拾うのに手間がかかりませんね。

年の数だけお豆をいただくのは昔から馴染みがあります。高齢の方が年の数だけ食べるのは大変ですが、高齢化の進んでいる現代に合わせてか、この頃は、10の位と1の位を足した数でもOKだと考えるむきもあります。
つまり、85歳なら8+5で13個の豆を食べれば良いということになります。高齢化で柔軟に変わってきているんでしょうね。
さらに、匂いを鬼が嫌うことから玄関にいわしを飾れば節分の準備完了です。

画像:料理旅館白梅

今も昔も京都ではいつも用心しているのは火災です。
雷などの天災と戦や放火、失火など人災と両方でおこる火は、一度燃え広がると大きな被害をもたらすので、防火はとても重要です。

京都の家庭では、「火迺要慎(ひのようじん)」の防火、火伏に霊験あらたかといわれている愛宕神社のお札は京都の者にとっては、一家にひとつ、欠かせないもとといえます。

画像:料理旅館白梅


料理旅館白梅でも瓦や玄関に「三つ巴」という水の模様を彫って床下から水を連想させる船の大きな瀬戸物の模様が見つかっています。ご先祖が防火の願いを込めてお守りとして置いていたようです。

画像:料理旅館白梅

今は、火災報知器があるので館内の火災の煙をキャッチしてくれますが、冬場に客室内で炭火で焼き物したりすると煙が感知してしまいとんでもないサイレンが鳴りだしますので注意しなければなりません。
木造の古い建造物が軒を並べる祇園界隈……。地域の消防訓練では舞妓さんも参加して1月12日には5年ぶりに岡崎で消防出初式が行われ祇園町の住民、消防団員ら約1500人が防災への気持ちを引き締めました。

祖母は雷が鳴り始めると「道真さん、怒ったはるなあ、くわばらくわばら」とよく言っていました。
平安時代、非業の死を遂げた菅原道真が雷神になって御所や京都に雷を落とした時に京都の「桑原」という場所だけ雷が落ちなかったという話があります。
かつて菅原道真の領地だったそう。人々は道真の祟りを恐れ「桑原 桑原」と言うようになったという言い伝えも残っています。

祇園新橋を歩いているとお茶屋の2階にはずらっと簾が下がり茶室格子は細くて中を覗くことができません。プライバシーの保護と防犯の役割、両方を兼ね備えています。
軒の上には「鍾馗(しょうき)さん」が剣を持ち、怖い顔で悪いものが家の中に入ってこないように見張っています。

画像:料理旅館白梅

鍾馗は唐の時代、病の皇帝の夢の中にあらわれて鬼を退治してくれた大男で、厄除けの守り神です。
時々斜めを向いている鍾馗さんがいますが、よそ見しているわけではありません。
お向かいの鍾馗さんと睨み合いの喧嘩にならないように少し視線をずらしているんですよ。
みなさんも祇園を歩かれる時に一度じっくり見てくださいね。

安全と幸福、健康を祈るこころは昔も今も変わりません。今年も皆さまが大切な方と1年平和で過ごされます様、祇園よりお祈りしております。

奥田朋子(おくだ ともこ)/料理旅館白梅 女将

1965年京都生まれ。1989年全日本空輸株式会社にCAとして入社。
1997年より若女将として、2017年より女将として料理旅館白梅を経営し、2017年より祇園新橋景観づくり協議会会長として京都、祇園の街づくり活動にも積極的に参加している。

文/奥田朋子

【画像】料理旅館白梅
※画像はイメージです。