2024年で開園100周年を迎えた京都府立植物園。
日本で最初の公立の植物園として誕生して以来、府民に親しまれ、歴史を重ねてきました。
四季折々の草花の栽培はもちろん、希少な植物の保全にも力を入れています。
このコラムでは、植物の専門家である戸部園長に季節ごとの見どころやユニークな植物の生態を教えてもらいます。物言わぬ植物から学ぶことはたくさん!緑に癒され、潤いある暮らしのヒントも見つけてくださいね。

8月に見頃の植物たち
今月は、植物園で真っ赤に咲いているサルスベリ(Lagerstroemia indica L.)を紹介します。
この植物の学名は、1579年に、リンネが植物を提供してくれた友人の名前(von Lagerström)にちなんで命名しています。その友人というのが、スウェーデン東インド会社の社長を務めた人で、インドで採集した植物をリンネに提供しています。

(サルスベリ)
サルスベリは、国内では関東以西では庭木に植えられていますが、もともとは日本にはなかった植物です。鎌倉時代以前に中国を経由して日本に持ち込まれたと考えられます。
また、サルスベリは『百日紅』と漢字で書かれます。日本でサルスベリの名で呼ばれたころ、中国ではすでに百日紅と呼ばれていました。そのため、そんな漢字が充てられています。
それぞれの名前の由来は、サルスベリはサルが滑り落ちるほど樹皮がつるつるのため、百日紅は夏から秋まで赤い花を100日間咲き続けることにあります。

(サルスベリ)
サルスベリの花は、よく見れば左右相称です。花弁が3枚ずつ左右に少し偏っています。

(サルスベリ)
大きく広がる赤い花弁を含めて直径2~3㎝で、6数性です。萼片6枚、花弁6枚、長い雄しべが6本、短い雄しべが約36本、雌しべ1本(6心皮)。これらを全部取り外して並べてみました。
雄しべには長いのと短いのと2種類あります。長い短いは、花粉を入れた葯(やく)という袋を載せた柄の部分(花糸といいます)をさします。長い方の雄しべは短い雄しべより外側にあり、葯は少し緑色をしていて、その中の花粉は雌しべの先端(柱頭)につけば発芽して花粉管を伸ばして精細胞を子房の中の卵細胞へ届けます。一方、短い雄しべは花の中心にあつまり、葯は黄色で、とても目立ちます。その花粉は発芽することがなく、エサとして訪花昆虫(ハナバチ)に食べられるだけです。
サルスベリの花には蜜腺が無く、蜜を出しません。従って、訪花昆虫は、蜜ではなく花粉を集めに来ます。花の中央に集まる短い雄しべは、訪花昆虫には絶好の美味しいエサに見えるのでしょう。それを食べに来た時に長い雄しべの花粉をからだにつけてしまい、他の花に行ったときに雌しべの柱頭につけて授粉の完成です。夏が終わるとほぼ球形の薄い褐色の果実が裂けて、中から羽をつけた種子が風で飛ばされます。
サルスベリの仲間は中国を中心に世界に50種分布し、日本には、沖縄に自生するシマサルスベリという白い花の種があり、植物園内でも見られます。

(左:ヒマワリ 右:熱帯スイレン)
8月には、ヒマワリや熱帯スイレン、アサガオ、ムクゲのような花も咲いています。
戸部 博 京都府立植物園 園長
1948年青森生まれ。東北大学理学部卒業。千葉大学理学部助手、京都大学理学研究科教授など39年間大学につとめる。その後、日本植物分類学長、日本植物学会会長などをつとめ、2018年4月1日より京都府立植物園の延長に就任。自らの主導により植物や植物多様性保全、京都府立植物園に関する研究を専門家によって一般の方にわかりやすく伝えるサイエンスレクチャーを2023年より植物園にて開始
文/戸部 博
【画像】京都府立植物園
