KBS京都で放送中の『谷口流々』。
谷口キヨコが、京都を中心に活躍する人々の仕事現場に足を運び、十人十色の人生哲学を紐解いていきます。
2023年7月8日(土)の放送では、昆布専門店代表・久世章斗さんに話を伺いました。
Profile:昆布専門店 5代目・久世章斗さん
久世さんは、上京区にある昆布専門店『五辻の昆布』の代表を務めています。店舗の2階に、昆布ラーメンを提供する『昆布と麺 喜一』をオープンさせました。
明治35年創業の歴史ある昆布専門店
『五辻の昆布』の創業は、明治35年。昆布専門店として、出汁昆布、佃煮やおやつ昆布などの商品を販売しています。
昔から、贈り物の定番としても選ばれてきた昆布。店内には、立派な包装の進物用昆布も並びます。
昆布専門店が創る究極の「昆布ラーメン」
店舗の2階には、昆布の魅力を発信するためにオープンしたというラーメン店『昆布と麺「喜一」』があります。ラーメン店ですが、なんとコースで提供されているそうで早速いただきました。
まず出てきたのは、羅臼昆布・真昆布・利尻昆布をそれぞれ水出しした昆布出汁です。塩も砂糖も入っておらず、火にもかけていない、純粋な水出しの出汁です。
順番にいただいてみると、水出ししただけとは思えない旨みにびっくり。味わいや香り、とろみなどが、それぞれ違うのがよくわかります。
次にいただくのは、目の前で削られたばかりのおぼろ昆布です。
表面を削ったもの、中を削ったものの2種類を食べ比べることができます。中の部分は、まるで和風のマシュマロのような、ふわりとした食感です。
そして、メインの『昆布らぁめん』が登場しました。ラーメンなのに、蕎麦屋で嗅ぐようなお出汁の香りが漂います。
お澄ましをイメージして作ったというこちらのラーメンは、海の恵みを感じるような澄んだ味わい。
実は、スープにはしょうゆが使われていないというから驚きです。また、油も使われておらず、代わりにお揚げを入れることでコクをアップさせているのだそう。
家業を引き継ぐ
大学を卒業後、まずは同業である別の昆布店で修行をしたという久世さん。その後、新しいことやおしゃれなことを学びたいと、意外にもケーキ店にて1年間働いたのだと言います。
その後、家業を継ごうと『五辻の昆布』へ戻ってきますが、先代であった父・純一さんと意見が合わず、衝突を繰り返す日々でした。
純一さんはこれまでの経験と実績をもとにした意見、久世さんはこれからを見据えた新しい意見を持っていたことで対立。ほぼ会話もなくなり、喧嘩ばかりの毎日が過ぎていきます。
そんな中、父・純一さんが60歳の時に、末期の肺がんであることが発覚します。その後わずか3か月で、純一さんは他界してしまいました。
余命宣告を受けて、涙を流したという久世さん。しかし、だからこそ純一さんと向き合おうと、毎日朝夕病院に通い、たくさん話をすることができたのだと言います。
決意を新たにした久世さんは、収益が減る一方だったというお店の状況を打開するべく、百貨店の催事に出店するなど、これまでとは違った販売方法に挑戦します。
しかし、そこで気がついたのは、「自分たちが思っていたよりもお客さんたちは昆布に振り向かない」ということでした。食材の質には自信を持っていたものの、お客さんに興味を持ってもらわないことには、売り上げに繋がらないことを痛感します。
昆布の未来を見据えて
久世さんは、仕入れで北海道に行った際に「昆布ラーメン」に出会います。その美味しさに感激し、思わず冗談で「うちも昆布ラーメンすんねん!」と言うと、周囲から食べてみたいという声が上がりました。それがきっかけとなり、昆布ラーメンを作ろうと決心します。
昆布は出汁として使う際には鰹やしょうゆと合わせて成り立つものです。その場合、出汁を味わうとまず感じられるのは鰹やしょうゆの風味。しかし、久世さんはそんな常識を覆し、いかに昆布を主役にできるかを模索しました。
お澄ましに似ているけれど確かなコクを感じる味わいを追求するうちに、あえて油もしょうゆも使わないという結論に至りました。
「『昆布らぁめん』を通して昆布の魅力を再認識してもらい、それをきっかけに昆布そのものに興味を持ってもらいたいですね」と、久世さんは語ります。
久世さんを表すことば
今回の“久世さんを表すことば”は『地味に主役』です。
昆布は決して派手ではないけれど、私たちがふと食べたくなる魅力を持った食材です。味付けの主役でもある昆布の未来は、明るそうですね。
みなさんもぜひ、『五辻の昆布』、そして『昆布と麺 喜一』を訪れて、昆布のおいしさを再発見してみてくださいね。
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文/ななえ
【画像・参考】谷口流々(毎週土曜日9:30~10:00) – KBS京都
※この記事は、2023年7月8日(土)放送時点の情報です。最新の情報は各店舗・施設にお問い合わせください。