祇園白川沿いの風情ある場所にたたずむ料理旅館白梅。老舗の格式、きめ細やかなおもてなしで、国内外から高い評価を得ています。
その人気旅館の女将から見る祇園の景色を『きょうとくらす』で毎月1回、コラムでお届けします。
立春の前日。祇園の節分
今回は祇園の節分の風習をお話しします。
梅がほころぶ2月
京の底冷え、骨の髄がジーンと冷えるような2月。からっとした寒気とは違う湿気のある寒さです。
とは言っても今年はずいぶん暖冬で、『料理旅館白梅』の名前の通り、店の前にある白梅の花も1月1日頃から開花し始めました。
毎朝メジロのつがいが東山から花の蜜を吸いに来るのですが、花に可愛い頭を入れて蜜をすった後、きゅっと首をひねるので、せっかくの花がポロリ。
「あぁ、もったいない」と思うのですが、野鳥や虫が来てくれるおかげで6月には梅の実がたわわに実り、梅酒や梅シロップ、梅ジャムを作らせてもらえるのですから文句は言えませんね。
祇園の節分
お正月、小正月と慌ただしかった1月は飛ぶように過ぎ、祇園では、“節分”と“お化け”が例年のように行われました。お化けとは節分の夜に芸舞妓が奇抜な仮装をして、お座敷で寸劇をお客さまに披露する、この時期ならではの花街のイベントです。
立春は1年の始まりにあたります。その前日の節分は、世の中の秩序が改まる直前のタイミングを狙って鬼や魔物が現れると考えられていました。
※諸説あり
年齢や職業、性別をも超える仮装“お化け”は鬼を驚かせ追い返す行事として江戸末期に始まったそうです。まさに日本のハロウィーンですね。以前は多くの花街でも見られたようですが、今は京都の花街、東京の浅草、四谷、大阪の北新地など、この風習が残っている場所はわずかになりました。
お化けもびっくりな「花代」
さて、普段は白塗りに引きずりの着物で美しい彼女たちですが、お化けはいかに普段の姿からかけ離れるかが腕の見せ所。大河ドラマの登場人物になったり、お相撲さん、歌舞伎役者に扮するなど趣向も毎年変わります。
寸劇仕立てになっているのですが、脚本や振り付けも馴染みのお客さまで有名な脚本家や振付師が担当したりするので本格的。当日は朝から衣装にかつら、お化粧に大忙しです。
2023年はコロナ5類移行前ということもありお化けチームは3組のみでしたが、2024年は8組も参加し華やかな節分となりました。
さてこのお化け、だれでも見られるのか、というとそういうわけではありません。まずお茶屋のお馴染みさんで、なおかつ余裕のある人に限られてきます。というのも、この日の花代は通常料金ではなくお化け特別料金。
通常の祇園甲部の花代は、2時間弱で芸舞妓一人大体5万円から6万円といったところですが、お化けの時は1組の出し物の時間は10分位、長くても15分程度。それでも1人につき、通常の花代の半額の料金がかかります。
(私の知る限り)それに必ず1人1人に1万円のご祝儀袋をわたすことになっていますので、1組のお化けチームが芸妓さん3人構成なら、約3万円×3人+ご祝儀1人1万円×3人=12万円ほどが約10分で飛んでいくわけです。
もし、8組全部呼んだら数時間で100万円から150万円の花代がかかります。
おまけにお化けチームは花街のお茶屋や料亭を次々と回っていくので、いつやってくるかはわかりません。じっと気長に飲みながら順番が回ってくるのを待つわけです。まさに昔ながらの旦那衆の愉しみといったところでしょうか。
昔はお客さまも一緒にお化けをされる方が多く、今やテレビでもお顔をよく拝見する大会社の社長、会長さまたちがセーラー服やチャイナドレスを着たりして歩かれていました。こちらの方々は鬼が確実に逃げ出しますね(笑)。
鬼が逃げ出しそうな“ひょっとこ踊り行列”
同じく鬼が逃げ出しそうな、ひょっとこ踊り行列が3日の夜、行われました。中身は『太秦・ひょっとこ踊りの会』の有志と、祇園の商家やお茶屋の旦那衆。おじさま方のユーモラスでキュートなしぐさに思わず笑いと拍手が起こります。
暦の上では春。祇園白川の桜の花芽も少し見えてきました。冬の峠もあと少し、暖かくなるまでどうぞご自愛くださいませ。
3月は祇園白川の桜情報もお伝えできればと思います。
奥田朋子(おくだ ともこ)/料理旅館白梅 女将
1965年京都生まれ。1989年全日本空輸株式会社にCAとして入社。
1997年より若女将として、2017年より女将として料理旅館白梅を経営し、2017年より祇園新橋景観づくり協議会会長として京都、祇園の街づくり活動にも積極的に参加している。
文/奥田朋子
【画像】料理旅館白梅
※画像はイメージです。