2024年で開園100周年を迎えた京都府立植物園。
日本で最初の公立の植物園として誕生して以来、府民に親しまれ、歴史を重ねてきました。四季折々の草花の栽培はもちろん、希少な植物の保全にも力を入れています。
このコラムでは、植物の専門家である戸部園長に季節ごとの見どころやユニークな植物の生態を教えてもらいます。物言わぬ植物から学ぶことはたくさん!緑に癒され、潤いある暮らしのヒントも見つけてくださいね。

5月が見頃の植物たち
5月、さまざまな植物の花が一気に見られる季節に入りました。
今月は、ムラサキ科のエキウムと呼ばれる外国産の植物を紹介します。学名の属の名をEchiumと書き、ギリシャ語由来でその意味は「毒蛇」。毒蛇にかまれた時の解毒剤に使われたとか、果実のかたちが蛇の頭を連想させるとか言われています。
世界にこの属は60種ほど知られ、その基準種(属の代表種)は、リンネが1753年にブルガリア産の株にエキウム・ウルガレ(Echium vulgare)と名前をつけたものでした。現在はヨーロッパから世界中に広がり、日本にも帰化してシベナガムラサキ(長い雄しべと雌しべをもつムラサキ科の植物)と呼ばれています。ただし、エキウムの分布の中心は、ヨーロッパ本土から西に離れたカナリー諸島(モロッコから西に数百キロの所にあるスペイン領)を含むマカロネシアで、そこに固有種が29種分布しています。

(エキウム・シンプレックス)
エキウムの花言葉は、その堂々たる姿から「忍耐」や「強さ」です。4月から植物園会館前に鉢植えで展示しているエキウム・シンプレックス(Echium simplex)は、カナリー諸島の7つの島のうちの1つテネリフェ島が原産地です。
同じムラサキ科のワスレナグサやキュウリグサのように、先に向かって順に1花で終わる枝を左右交互に伸ばすサソリ型花序(花の集団)をもっており、花は5数性で5枚の萼片、5枚の花弁が合弁になっています。
5本の雄しべと深く5裂した子房があり、花柱は子房の基部についているところが特徴です。花の奥深くに蜜腺があり、多量の蜜がつくられます。訪花し蜜を吸うようなミツバチやハナバチが多いところでは簡単に種子ができ、販売もされています。植物園では初夏に種子を採取し、それらを春から夏にかけてまいて、発芽し1年半後に開花し、その後は枯れてしまいます。

(エキウム・シンプレックス)
北山ワイルドガーデンなどに植えてある「エキウム・ウィルドプレッティー」(Echium wildpretii)もまた、カナリー諸島原産で2メートル以上に成長する「ジュエリータワー」と呼ばれる種です。

(エキウム・ウイルドプレッティ)
花芽を待つ4月、ビロード状の葉に大人も子供も触わりたくなってしまいます。

(エキウム・ウィルドプレッティ)
エキウムの分布の中心であるマクロネシアの島々は火山島で、今から僅か2~3千万年前にできたと推定されています。エキウムの歴史がそこから始まったとは考えにくく、おそらくもともとヨーロッパ大陸にあったものがカナリー諸島へ運ばれたものと考えられます。あれやこれや考えながらエキウムの花々を鑑賞してください。

(シャクナゲ)
植物園内では、シャクナゲ、ボタンとシャクヤク、そしてゴールデンウィークの終わりごろから咲きだすバラなどが植物園内を飾ります。
戸部 博 京都府立植物園 園長
1948年青森生まれ。東北大学理学部卒業。千葉大学理学部助手、京都大学理学研究科教授など39年間大学につとめる。その後、日本植物分類学会長、日本植物学会会長などをつとめ、2018年4月1日より京都府立植物園の園長に就任。自らの主導により植物や植物多様性保全、京都府立植物園に関する研究を専門家によって一般の方に分かりやすく伝えるサイエンスレクチャーを2023年より植物園にて開始。
文/戸部 博
【画像】京都府立植物園
