KBS京都で放送中の『京都浪漫~悠久の物語~』。
2023年4月9日(日)に放送された『谷崎潤一郎が愛した京都~神護寺・曼殊院門跡・石村亭・法然院~』を、全5回に分けてご紹介します。
谷崎潤一郎が愛した京都~神護寺・曼殊院門跡・石村亭・法然院~
- 第1話 「細雪」で描かれる桜
- 第2話 神護寺で記された「春琴抄」
- 第3話 曼殊院門跡で学び「少将滋幹の母」へ
- 第4話 「夢の浮橋」の舞台、潺湲亭(現 石村亭)
- 第5話 「瘋癲老人日記」に描かれた谷崎と法然院
曼殊院門跡門主から学び作品に活かす
生涯40回以上転居を繰り返した谷崎潤一郎。疎開した後、3人目の妻・松子が「一生に一度でいいから京都に住みたい」と言ったことをきっかけに、京都に住みました。
京都には谷崎潤一郎ゆかりの地が数多く点在しています。左京区一乗寺にある曼殊院門跡もその一つです。
曼殊院門跡は、叡山電鉄・修学院駅から徒歩およそ20分、市バス・一乗寺清水町からも徒歩およそ20分のところにあります。
谷崎が初めて曼殊院門跡を訪れたのは、京都に住み始めて2年目のこと。その前年知り合っていた、比叡山専修院の山口光円氏が曼殊院門跡の門主に就任し、その晋山式が行われたのです。
その後、昭和25年にも曼殊院門跡を訪れています。当時新聞小説『少将滋幹の母』を連載中でした。“天台宗の碩学”と言われた博学の山口門主から天台教学を学び物語に活かそうと考えたのです。「一乗寺の歴史や風土なども山口門主から聞いたのでは」と曼殊院門跡の執事長は話します。
谷崎は曼殊院門跡に鐘を寄贈しています。鐘がおそらく戦時中の供出令によってなくなってしまい、それを知って鐘を寄進したそうです。今でも法要前の合図に使われています。
鐘の寄贈にあたり、歌も贈っています。「朝夕の鐘の音が比叡山から吹き降ろす風と共に、曼殊院門跡近辺や里山に響き渡るように」という意味の歌だそうです。
「少将滋幹の母」の主人公の思いは谷崎潤一郎の思い
『少将滋幹の母』の中に描かれた主人公の滋幹が雲母坂(きららざか)を越え、恋慕う母と再会するラストシーンについて、谷崎潤一郎は「ちょうど曼殊院門跡のあるあたり」と語っています。
訪れた際に見た一乗寺周辺の風景を作品に活かしたとされ、そうした繋がりから実母の法要を曼殊院門跡で営みました。
『少将滋幹の母』に不浄観や魔訶止観(まかしかん)という言葉が出てきます。登場人物の大納言国経が北の方を忘れられず不浄観という修行法を行ったシーンが出てきますが、谷崎が山口門主に教わったことだと考えられるそうです。
谷崎潤一郎の母への思いがそのまま『少将滋幹の母』の主人公の母への思いに写されているのかもしれません。
続いては、“谷崎潤一郎が愛した京都~第4話 「夢の浮橋」の舞台、潺湲亭(現 石村亭)~”をご紹介します。
文/きょうとくらす編集部
【画像・参考】京都浪漫~悠久の物語~(第1・2週 日曜日 21:00~21:55/再放送 第3・4週 日曜日 21:00~21:55) – KBS京都
※この記事は、2023年4月9日(日)放送時点の情報です。