2024年で開園100周年を迎えた京都府立植物園。
日本で最初の公立の総合植物園として誕生して以来、府民に親しまれ、歴史を重ねてきました。四季折々の草花の栽培はもちろん、希少な植物の保全にも力を入れています。
このコラムでは、植物の専門家である戸部園長に季節ごとの見どころやユニークな植物の生態を教えてもらいます。物言わぬ植物から学ぶことはたくさん!緑に癒され、潤いある暮らしのヒントも見つけてくださいね。

2月が見頃の植物たち
まだまだ寒さが厳しい2月。ウメ、ツバキ、サンシュユなどの樹木の花が咲き出します。

生態園では、キンポウゲ科のセツブンソウ、セリバオウレン、メギ科イカリソウ、ユリ科のカタクリ、キク科のフキなど、早春の花々が地表から飛び出します。
これらの植物はたいてい昨年秋のうちに地中で小さな花の蕾を作っています。冬の間、それらの花芽は休眠して地中で春を待ちます。そして気温が上がり始めると芽が膨らみ、花茎が伸びて花を咲かせます。

春になると、園内に次々と咲き出す植物の1つにキンポウゲ科のフクジュソウがあります。
ここ数年フクジュソウが国内職員の間でにわかに話題となり、それがまだ続いています。生態園や絶滅危惧植物の植栽地などの数ヶ所にフクジュソウが植えられています。
少し物知りな来園者に質問を受けた時に種のラベルが正しいかどうかという疑問がありました。私が植物の勉強を始めた頃、国内にはフクジュソウ1種だけ存在していました。ところが、20年ほど前に2つの論文が発表され、国内には4種見つかり『フクジュソウ』、『キタミフクジュソウ』、『ミチノフクジュソウ』、『シコクフクジュソウ』が存在することが明らかになりました。
それらが存在する地域も少し違います。『キタミフクジュソウ』は北海道北見地方に、『フクジュソウ』は北海道から本州中部以北に存在するほか、『ミチノクフクジュソウ』は名前と違い本州全域に存在し、『シコクフクジュソウ』も名前と違い九州や関西にも存在しています。

4種の違いは僅かで、『キタミフクジュソウ』は対生葉序(たいしょうようじょ:2枚の葉が茎に交互にではなく、対になってつく)、托葉(たくよう:葉の基部にある葉の一部で小さい)がない点で他の3種と違います。また、『ミチノクフクジュソウ』は萼片(がくへん)が花弁に比べて短く、そしてフクジュソウでは花托や葉の裏に毛があるが、『シコクフクジュソウ』ではそれらの毛がないという違いです。
現在、植物園では4種全て見ることができます。3年前の4月6日に北海道標津町に住む友人が庭に咲き出したキタミフクジュソウを送ってくれました。現地ではまるでフキノトウのように葉よりも花が目立ちます。

開花中の花の直径はおよそ4~6センチで10枚前後の萼片、10~15枚程度の花弁、無数の雄しべ、雌しべを持っています。昨年発表された論文によれば雄しべ、花弁、萼片は同じ遺伝子が働いて作られているそうです。
『早春の草花展』

早春の草花展2025 未来へ駆け出す春
開催期間:2025年2月7日(金)~3月9日(日)
戸部 博 京都府立植物園 園長
1948年青森生まれ。東北大学理学部卒業。千葉大学理学部助手、京都大学理学研究科教授など39年間大学につとめる。その後、日本植物分類学会長、日本植物学会会長などをつとめ、2018年4月1日より京都府立植物園の園長に就任。自らの主導により植物や植物多様性保全、京都府立植物園に関する研究を専門家によって一般の方に分かりやすく伝えるサイエンスレクチャーを2023年より植物園にて開始。
文/戸部 博
【画像】京都府立植物園